Tune In Turn On The Acid House ハウスと魔術

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    Tune In Turn On The Acid House

     

    狂乱のセカンド・サマー・オブ・ラブ前夜とも呼べる19874月。米国ツアーの途中、シカゴに立ち寄ったサイキックTVPTV)のジェネシス・P・オリッジと(当時の)妻ポーラは、地元ミュージシャンやDJを通して未知なる音楽・・・・・アシッド・ハウスに遭遇する。

     

    1984年より展開してきたPTVハイパーデリック路線(注1)のネクスト・ステップを模索していたジェネシスは「これだ!」とばかり、すぐさまシカゴのラジオ局に出向き、6台のカセット・デッキと2台のターンテーブルを駆使して録音実験を開始。ミニマルに持続するビートのうえに、バロウズのカットアップよろしく様々な音源をサンプリングしていった。

     

    アシッド・ハウス実験は米国ツアー中、シカゴのみならずLANYでも続けられ、すっかりその可能性に魅了されたジェネシスはツアー終了&英帰国後の9月にはすかさずシェフィールドのスタジオに直行。(ジェネシス本人曰く)英国初のアシッド・ハウス作品”Tune In Turn On The Acid House”をレコーディング。

     

    そこから間髪おかず、元ソフト・セルのデイヴッド・ボールを筆頭とする多数のゲストを迎えアルバム作品”JACK THE TAB - Acid Tablets Volume One”をわずか2日間で制作。この”JACK〜”は架空のオムニバス・アルバムとしてリリース。シングル・リリースされた”Tune In〜”と共に当時の英クラブ・チャートでヒットを飛ばした。

     

    この成功はPTVがハイパーデリック路線で目指していた「ダンス・ミュージックでの成功」を初めて実現させたものであり、以降PTVはセカンド・サマー・オブ・ラブの波に乗りながら、アヴァンギャルド・ロックとハウス・ミュージックを融合させた唯一無二の存在として、目がくらむような夏を駆け抜けていく。

     

    「今求められているのは、ジミ・ヘンドリックス的なものに彩られたハウス・ビートであるということに気付いてもらいたいと願っている。別の言い方をすればトランス・ビートを伴った音の無秩序(ソニック・アナーキー)だ。それこそがロック・ミュージックの原初形態であり、原始的律動に電子的サウンド、純粋なサウンド(それはメロディックなサウンドを意味しない)が被さっていき、それが肉体と頭脳の両者に働きかけ、サイケデリックで宗教的でセクシャルな状態を生み出していく」ジェネシス・P・オリッジ談(注2

     

    かつてゲイ・カルチャーから培われたディスコ・ミュージックが1980年代に入りNYのラリー・レヴァン(注3)、シカゴのフランキー・ナックルズ(注4)やロン・ハーディー(注5)らのDJミックスにより、それまでのソウル・ミュージックやR & BからローランドのTR-808TB-303を導入したハウス・ミュージックへと変貌を遂げたように、ハウス・ミュージックのドラッギーな効能「のみ」に焦点をあてたDJピエール(注6)などにより突然変異的に誕生したアシッド・ハウス。

     

    このアシッド・ハウスはMDMAとセットで1987年をピークにイビザ島などを経由し、イギリスに不法入国することでセカンド・サマー・オブ・ラブを誘発。その音楽性もシカゴ産のチープで荒削りなサウンドから、英国ならではのミクスチャー展開に発展。そんなアシッド・ハウス独自展開においてもPTVは突出していた。

     

    「大切なこととして覚えておかなければならないのは、音楽の根本的な変化は常に新しいドラッグと共に起こるということだ。今回もエクスタシー(MDMA)と共に変化は表れた」ジェネシス・P・オリッジ

     

    新しいドラッグと同様にこの時期のPTVにとって重要だったのがデジタル・テクノロジーの進化だった。当時最先端のテクノロジーを駆使してPTVはサイケデリックや魔術といった領域に新たなる魂を吹き込む。バーチャル・リアリティによって立ち表れるそれらは「在る」という意味をわれわれに問いかけ続ける。

     

    「我々にはAA∴(注7)に属するような興味深い知性が必要だった。そしてDJたちが必要だった。彼らは我々に必要なものはビートであるということをわからせてくれる鍵を与えてくれた」ジェネシス・P・オリッジ

     

    英国でのアシッド・ハウス・ブームは実質1990年には下火になり、変わってブリープ・ハウス(注8)に時代は移り変わるのだが、PTVはあまりにも独自の路線を走り続けていたために90年代初頭も周囲など関係なく「アシッド・ハウス化したグレイトフル・デッド」とでも呼ぶべきライブ活動を継続。1992年のPTV来日(注9)でも狂騒的なトランス・ビートのなか、絶唱しながらオーディエンスとの抱擁(ベロチュー有)の限りを尽くしていたジェネシスの姿はまさにEカルチャーの申し子そのものだったと僕は記憶している。

     

    しかしそんなジェネシスはTOPYでの不穏すぎる宗教活動や反社会性を問題視され、同年1992年に英国より国外追放処分を言い渡される。ジェネシスは活動拠点を米国に移動させるが、PTVとしての活動は滞りがちになり1996年活動停止状態に陥る(注10)。

     

    これによりジェネシスのアシッド・ハウスによる60’sサイケデリアと魔術のルネッサンス運動の目論みは一旦潰えたかに見えた。しかしテクノロジーによるエソテリックな領域への接続は次世代によって様々な形態を取りながら引き継がれ続けている。その分岐点としてもこの時代のアシッド・ハウス、そしてPTVの活動は重要であったといえるであろう。

     

    (注1)ハイパーデリック路線

    1994年より故ブライアン・ジョーンズに捧げたPTVヒット曲“ゴッドスター”に代表される、60年代サイケデリック・カルチャーとインダストリアル・カルチャー、そしてダンス・ミュージックの融合を目指したもの

     

    (注2)ジェネシス・P・オリッジ談

    1990年の阿木譲氏編集「E」より抜粋

     

    (注3)ラリー・レヴァン

    70年代よりNYのパラダイス・ガラージで名を馳せた伝説のDJ。ガラージ・サウンドの生みの親であり、シカゴで発生したハウスをいち早くNYで広めた。武邑光裕氏曰く彼のDJテクニックであるストップ(オーディエンスが最高潮に盛り上がっている最中に突然10秒ほど完全無音状態を作る技)はグルジェフのストップ・エクササイズと同様、非常にヤバかったと発言している。

     

    (注4)フランキー・ナックルズ

    1977NYからシカゴに渡りウェアハウスのレジデントDJを勤める。そこで彼がプレイする音楽がハウスと呼ばれるようになった。

     

    (注5)ロン・ハーディー

    オーナーとの対立でウェアハウスを飛び出したフランキー・ナックルズの変わりに二代目レジデントDJ(その時にはウェアハウスからミュージックボックスへと店名変更された)を勤めたDJ。独立後パワープラントというクラブを立ち上げたフランキー・ナックルズとDJバトルを繰り広げシカゴ・ハウス・シーンを盛り上げた。

     

    (注6DJピエール

    1987年、アシッドをキメたDJピエールがTB-303のツマミをゲラゲラ笑いながらウネウネいじって制作した“Acid Trax”がアシッド・ハウスの誕生といわれている。

     

    (注7AA

    「科学の方法、宗教の目的」をモットーに、黄金の夜明け団を離脱したアレイスター・クロウリーが1907年に設立した魔術結社。東方聖堂騎士団OTOともつながりが深く、現在においてもその霊統は存続しているといわれている。

     

    (注8)ブリープ・ハウス

    シェフィールドの“Warp”レコードなどを中心に発生した電子信号音(ブリープ音)で作られたハウス・ミュージック。アシッド・ハウスにはPTVが関わったが、ブリープ・ハウスではキャバレー・ヴォルテールがスィート・エクソシスト名義でヒットを飛ばしている。

     

    (注91992PTV来日

    今はなき東京パーンで1月に行われたライヴ。ちなみにその前の1990年にはジェネシス&ポーラは芝浦ゴールドで開催されたE.C.C.O Night“ボディ・アポカリプス”にも出席。ファキール・ムサファーやリディア・ランチと共にパフォーマンスを行った。僕は残念ながら観ていないが、観た友人に話を聞いたら「なんかよくわからないS&Mショーだった」とゲンナリされたのは良い思い出。

     

    (注101996年活動停止状態に陥る

    ジェネシスの英国国外追放処分は1999年には解除。PTV2003年にはメンバーを一新して活動再開するも、ポーラと別れた影響なのか?ハウス路線からは撤退し、よりオーセンティクなサイケデリック・ロックを模索している印象。

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     


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